2008年12月25日木曜日

マンガ好きと漢字の読み間違い

2008 年の秋,ときの首相が答弁でしばしば漢字を間違って読むことが話題になった。マンガ好きで知られる首相なので,「マンガばかり読んでいるから(本を読まないから)漢字を覚えないのだ」との批判もなされた。果たしてそう言えるのか?

どういう間違いをしているのか見てみよう。「踏襲(とうしゅう)」を「ふしゅう」,「未曽有(みぞう)」を「みぞうゆう」,「有無(うむ)」を「ゆうむ」といった具合。

私も漢字力が乏しいので,このことを批判する資格はない。とても恥ずかしいが,私が長らく間違って覚えていた漢字語の読みを挙げてみる。「珠玉(しゅぎょく)」を「しゅだま」,「高騰(こうとう)」を「こうふつ」,「贋作(がんさく)」を「にせさく」,「造詣(ぞうけい)」を「ぞうし」,「破綻(はたん)」を「はじょう」(破綻は件の首相も間違えたようだ)などなど。この例の中で,「高騰」の間違いは明らかに「沸騰(ふっとう)」の影響だ。

話を元に戻す。マンガばかり読んで本を読まないとこういう間違いをしがちになるのだろうか? 必ずしもそうとは言えまい。上に挙げた例はいずれも読み方を間違ったものだ。字面と意味はどうにか正しく認識しているように見える。

マンガにはルビが積極的に振ってあるので,むしろ正しい読みを覚えるという効果が無くもない。一方,教養主義者が好んで読むような本は,上に挙げたような常識的な言葉はルビを振らないので,《字面と文脈からなんとなく意味は分かり,何度も読んでいるうちになじんでしまうが,間違って覚えた読みが脳に固定される》という事態が起りやすい。初めて見た言葉の読みを,きちんと考えて推測し,分からなければ辞書で確認する,という習慣のある人は,読書を重ねることで言葉を正しい読みとともに覚えるだろう。しかし,漢字語というものは正しい読みが分からなくてもなんとなく読めてしまう魔物なのだ。

教養主義の文脈で語られることのある,ある首相経験者が,在任中の答弁で「大規模」のことを「おおきぼ」と読んでいたことを思い出す。

もっとも,「ふしゅう」の首相の間違いどころは,「頻繁」と言うべきところで「はんざつ」と言うなど,読みの間違いにとどまらないようだ。悲しいのは,マスコミで騒がれるまで誰も指摘してくれなかったことではないか(聞く耳を持たなかったのかもしれないが)。まさに裸の王様だ。大学教授でも,初歩的な英単語の綴りを間違って覚えたまま英語論文を書き続けていることがある。大先生になってしまうと誰も間違いを教えてくれなくなるからだろう。

0 件のコメント: