高校生か中学生の頃,居酒屋のようなところにいたら(ちなみに私は飲んではいない),隣のテーブルで酔っぱらいおじさんが言っていた。
分数足す分数ちゅうのは分かる。しかし,分数を分数で割るというのが,わしゃあ分からん。
なるほど。「じゃあ分数掛ける分数は分かるの?」と突っ込みたかったが黙っておいた。おじさんの疑問は「分数割る分数」の計算に何か意味があるのか,という点にあったのだろう。分数は乗算も除算も同じくらい意味を見出すのが難しいと思うが,とくに除算が難しいような気がするのは,「上下をひっくり返して分子分母を掛ける」という奇抜な計算規則のせいではないだろうか。計算規則で言うなら,乗除算よりも加減算のほうが遥かに複雑怪奇なのだが,加減算ということ自体の意味は取りやすいので分かった気になるのだろう。
私は,誰にでも納得のいく説明ができるほど根底的に分数計算の意味が分かっているという自信が無い。分数の除算は,たとえば
あんパンが二つ半あって(きっと,最初は三つあったのを誰かが半個食べたのだろう),いまから一人に半個ずつ配ったらちょうど五人が食べられる。
といったようにして一応は説明がつくはずだが,果たして件のおじさんは納得してくれるかどうか。
分数に限らないが,計算の意味が分かったような気になっているのは,少数の具体例でイメージを摑み,あとは計算規則を覚えて正しく運用できているだけのことだ。しかし最初から計算の意味を根底的に理解しようなどと企てると,ちっとも先に進めないことになる。私のような凡人はね。解析力学で出てくるような汎関数の計算とか,何をやってるのかさっぱり分からず,結局理解できずじまいだ。
意味がぼんやりとしか分からなくても,計算に慣れてしまえば,分数という数の表現方法から,有理数という数そのものの世界へ入ってゆけて,視界が広がるんだけどね。
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