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2009年1月5日月曜日

分数計算の意味

高校生か中学生の頃,居酒屋のようなところにいたら(ちなみに私は飲んではいない),隣のテーブルで酔っぱらいおじさんが言っていた。

分数足す分数ちゅうのは分かる。しかし,分数を分数で割るというのが,わしゃあ分からん。

なるほど。「じゃあ分数掛ける分数は分かるの?」と突っ込みたかったが黙っておいた。おじさんの疑問は「分数割る分数」の計算に何か意味があるのか,という点にあったのだろう。分数は乗算も除算も同じくらい意味を見出すのが難しいと思うが,とくに除算が難しいような気がするのは,「上下をひっくり返して分子分母を掛ける」という奇抜な計算規則のせいではないだろうか。計算規則で言うなら,乗除算よりも加減算のほうが遥かに複雑怪奇なのだが,加減算ということ自体の意味は取りやすいので分かった気になるのだろう。

私は,誰にでも納得のいく説明ができるほど根底的に分数計算の意味が分かっているという自信が無い。分数の除算は,たとえば

あんパンが二つ半あって(きっと,最初は三つあったのを誰かが半個食べたのだろう),いまから一人に半個ずつ配ったらちょうど五人が食べられる。

といったようにして一応は説明がつくはずだが,果たして件のおじさんは納得してくれるかどうか。

分数に限らないが,計算の意味が分かったような気になっているのは,少数の具体例でイメージを摑み,あとは計算規則を覚えて正しく運用できているだけのことだ。しかし最初から計算の意味を根底的に理解しようなどと企てると,ちっとも先に進めないことになる。私のような凡人はね。解析力学で出てくるような汎関数の計算とか,何をやってるのかさっぱり分からず,結局理解できずじまいだ。

意味がぼんやりとしか分からなくても,計算に慣れてしまえば,分数という数の表現方法から,有理数という数そのものの世界へ入ってゆけて,視界が広がるんだけどね。

2008年12月15日月曜日

科学の本の質

「科学の本質」じゃなくて,科学の書籍のクオリティーの話ね。

学生の頃,定年も近くなった指導教官が遠い目でこう仰ったのを今でも覚えている。

ボクらの年代以降の人は・・・本をまじめに書かなくなったから・・・君たちは,ある意味・・・不幸だ。

果たして著者の年代でそう割り切れるものかどうかは分からないが,昔,本当にまじめに本を書いてくれる先生方がいたこと,そして現在,あまりまじめに本を書かない先生方が少なくないことは確かだ。長い間,科学の本から遠ざかっているので最近のことは分からないが,学生時代の記憶を辿ってみる。

書店の数学のコーナーに行くと,線形代数と微分積分の本がたくさんある。なぜたくさんあるかは分かりきっているから書かない。これらのうち,既存のものを越えようと志した本がどれほどあるのか。

まじめな本づくりで私も評価しているある著名出版社から「基礎なんとかシリーズ」なんていうのが出る。執筆陣も豪華。意気込んだ企画におお!と思い,興味のある巻を何千円も出して買う。読んでも分からない。頭が悪いせいだとがっかりする。何度か挑戦するがやっぱりよく分からない。何年も経って,その本を理解する素地が整ってくると,頭のせいだけではなかったことが見えてくる。著者に書く力が無いのだ。そしておそらくは片手間に書いている。

良い本に出会った人の中から良い本を書く人が現れる。良い本に出会えなかった人が良い本を書くのは難しい。いま良い本を作って世に出すことは,次の次の世代のためにとても大切なことなのだ。


2008年12月14日日曜日

数学と物理の言葉の違い

数学と物理で,慣習的に同じ概念を違う言葉で表すことがある。

例えば,線型空間 V の任意の元が,V の部分集合 {vi} の元の線型結合で表せるとき,数学では「{vi} は V の生成系である」などというが,物理学者はしばしば「{vi} は完備である」などという。「完備」は complete の訳語だろう。「完全系」などともいう。

これが齟齬を来すこともある。

学生の頃,量子力学関係の何かの集中講義に数学科の学生が二人潜っていた。教師が「○○は完備です」というと,彼らは解析や位相でいうところの完備(こちらも complete)と誤解し,どう考えても完備じゃないので,間違ったことを言ったと思ってツッコミを入れていた。私はフォローしようとしたが,それを先生は遮り,両者に誤解だけが残った。