2008年12月12日金曜日

ゲタのデザイン

印刷業界で使われる「ゲタ」という符号がある。「〓」のことだ。下駄の足跡のようだからそう呼ぶのだろう。

この何だか無粋な符号は,現在では《最終的にはそこに文字が入る予定だが,何が入るか不明なので,とりあえず空けておく》目的で使うことが多い。たとえば,本の奥付で発行年月日を「2009年1月〓日」としたり,手書き原稿が読めなくて「山田〓雄」としたり。初校ゲラでゲタにしておいて,そこに赤字を入れてもらうわけだ。

どうしてこんな形をしているかというと,活版印刷にルーツがある。活版では,たとえば「あ」という字が50回出てくるなら50本の「あ」という活字が必要になる。それがたまたま足りなくなることもある。足りなくなったら急いで買うなり鋳造するなりしなければならない。しかし,補充が来るまで進行を止めるわけにもいかないから,「あ」の代わりに他の活字を逆さまに(つまり字面を下に)入れておくのだ。活字のお尻には溝があるので,そのまま刷ると「〓」のようになる。

下の写真で,左側に写っているのは活字を逆さまに立てたもの。これで印刷すれば「〓」のようになるのが分かっていただけると思う。

右に写っている謎の物体は「ぜい片」(ぜいへん)というもの。奇妙な形だが,実は鋳造直後の活字は,お尻にぜい片がくっついた状態になっている。図無しでは説明しづらいが,上の写真で活字の上部とぜい片の上部がくっついた状態ということだ。このぜい片を折り取った跡が溝なのである。

ここで,デジタルフォントにおけるゲタのデザインを考える。本物のゲタは,全角いっぱいの黒四角に細く白い筋が通ったように印刷されるが,デジタルフォントでその通りにデザインしなければならいということはない。全角いっぱいにデザインすると鬱陶しいだろう。しかし,ゲタがどのように使われるかを考えると,少なくとも十分に目立たせる必要はある。それなのに,イコール「=」を極太にしたような程度の弱々しいデザインのフォントがあるのは残念だ。

ゲタ一つデザインするのにも,活版でどうだったのか,現在はどのように使われているのかといったことを考えていただけるとありがたい。

0 件のコメント: